2009年9月に発足した新連立政権下での教育政策に期待し、公教育計画学会として以下のことを望みます。
新連立政権下でいち早くすすんでいる2009年度補正予算の見直しについて、その基本的な姿勢を歓迎します。
補正予算見直し後に一気に進むと思われる2010年度予算編成に際しては、民主党が今回の総選挙でかかげたマニフェストやそれ以前に作成したインデックスに示されたものが優先されると思われますが、この点につき期待と懸念が以下のようにあります。
公立高校授業料の無償化については歓迎します。ただし、家庭に対する直接給付方式については賛同できません。自治体の給付事務に多額の経費を要しますし、それが授業料納付のために使われることが確実ではないからです。この点につき9月25日文部科学大臣が都道府県への交付方式に転換する姿勢を示したことは政策の実効性の観点からも妥当であると考えます。
なお、これまで授業料減免を受けてきた生徒や家庭に関しては、別の形での給付型の支援が必要です。この措置により、従来であれば経済的な理由から高校進学をあきらめざるを得ない生徒や家庭への支援が拡大されます。
こうした手だてとともに、国際人権規約等で示されている後期中等教育の無償化に向けた検討を早急に開始すべきです。
民主党のインデックスによると「国際人権A規約(締約国160カ国)の13条における「高等教育無償化条項」の留保を撤回」し、「漸進的に高等教育の無償化」を提起しています。この方向に関しては賛同いたします。
その第一歩として、国公立大学法人の授業料の大幅引き下げと運営費交付金制度の見直し及び私立大学に対する助成金の大幅拡充を求めます。
また、日本学生支援機構による奨学金の拡充については貸与方式ではなく給付方式の形をとることを求めます。
2009年度の文部科学省予算は2006年教育基本法改正に伴い、2008年7月に閣議決定された教育振興基本計画にもとづいて編成されています。したがって、同計画の見直しを早急に行うことを前提にした予算の再編を行うべきです。併せて、安倍晋三内閣のもと、多くの反対を受けながらも「改正」されるに至った教育基本法はきわめて問題であると考えています。現行の教育基本法及び教育振興基本計画の再度の見直しに際しては、各種の国際人権保障条約の趣旨を踏まえて検討することが強く望まれます。
当然のことながら、これらの条約にかかわる議定書の批准、各種勧告にもとづく是正措置、徹底した国内法改正を伴う新たな批准を早急にすすめることを前提にした見直しであるべきだと考えます。
教員養成政策の見直しを全面的に行うことを求めます。その意味から、教員免許更新制廃止については賛同します。ただし、本年度受講者に対する手だてを講じること、従来型の教育委員会や教育センターでの研修だけでなく大学での研修に参加できる選択的研修の実施などが必要です。
教員免許更新制廃止とセットになっている6年制教員養成については「開放制原則」がくずれることのないよう慎重な検討を求めます。同様に、文部科学省が現在進めている教員養成カリキュラム改編に関わる大学等への指導行政を再検討し、各養成機関の自律性や独自性を尊重することを強く求めます。
民主党が示したインデックスには、「インクルーシブ(共に生き共に学ぶ)教育の推進」、「国内外における日本語教育の充実」、「教育の無償化」、「学習指導要領の大綱化」、「教科書の充実」、「中央教育委員会の設置」、「教育委員会制度の抜本的見直し」、「保護者や地域住民等による学校理事会の設置」、「私立学校の振興」など日本の教育制度全般にかかわるさまざまな政策が提示されています(連立政権をくむ社会民主党や国民新党のマニフェストとのすりあわせも必要なものがいくつかあります)。
しかしながら、グローバリゼーションがすすむなかで、外国籍の人々の教育への権利保障を含め日本の公教育はどうあるべきなのか、その制度はどうあったらいいのかという観点が明確ではありません。
早急に既存の中央教育審議会や調査研究協力者会議の体制を見直し、新たな公教育制度の構築、制度設計に向けて動き出すことを強く期待します。公教育計画学会も公教育の新たな理念・政策形成に参画していきたいと念じています。
2009年9月27日
公教育計画学会創立総会参加者一同