進むドイツの大学改革

常任理事 田口康明(鹿児島県立短期大学)

この夏休み、ドイツのベルリンに行ってきました。といっても、話題のベルン 動物園のクヌート君(シロクマ)を見にいったわけではありません。ちなみドイツ語では白熊を「アイスベア」といいます。「氷熊」ということでしょうか。
用件は、小生が勤務している短大と交流協定のある大学が共同研究をしようということでその内容について話し合うというものでした。先方はEUの研究助成(金)を獲得することが重要で、そこでは特に国際研究が求められているとのことでした。
先方はHTWベルリン(ホッホシューレ・テヒニシェ・ビィルトシャフト・イン・ ベルリン)です。ベルリン技術・経済大学とでも訳しましょうか。当方は、鹿児島県立短期大学商経学科ですので、経済学関連の共同研究といったことで、特に 金融危機以後の経済問題に焦点が当てられるようです。そんな交渉ごとがありました。
そのあと大学を案内してもらいました。元々この大学はFHTWであり、頭にファ ッファ(Fach)というのがついていました。ファッファ・ホッホシューレ(FH)とホッホシューレ(H)は、以前は厳格に異なっていました。
学校の「格」というわけではありませんが、ドイツのいわゆる「大学」は、中世からの伝統的な「神法医哲」学を教授することから今日までの歴史を持つ「総合大学(ウニベルジテート)」がまずあり、それに自然科学や社会科学の単科大 学を拡充させた「大学(ホッホシューレ)があります。この二つ「学術的大学 」が日本的にいえば最高学府として存在しています。1970年代に技師学校や上級専門学校(ホーヘレ・ファッハシューレ)が高等教育の機関に拡充して格上げされたのが専門大学(ファッファ・ホッホシューレ(FH))です。格上げされずに そのまま残っている学校もあります。実務的な側面の強い経済学や工学は主にこうした専門大学によって担われていました。
70年代の改革以降、ドイツは教育改革の停滞期に入ります。停滞期というよりも、学校内の改革が進んだ時期です。学校の民主化が進みましたし、大学も内部改革が進みました。しかし、外見的な教育制度の複雑さはそのまま放置されてき ています。
ところが、ここにきてEU統合により、教育制度の改革に着手しなければならなくなってきました。欧州全体の労働力の流動性を高めるために、教育制度を統一しさらに、アメリカとの連関においてわかりやすくする必要が生じてきました。 日本もそうですがアメリカ型のシンプルな高等教育制度に比べて、ヨーロッパ諸国は、とりわけドイツは複雑です。
2010年を目標にEUは「ヨーロッパ高等教育領域」(European Higher Education Area, EHEA )を確立するという「ボローニア宣言」(1999年6月)の実現に向けたボローニア ・プロセスが開始されています。ここではヨーロッパでは必ずしも明確でなかっ た、学士課程、修士課程、博士課程をきちんと区分しなければならなくなりました。
そんなこんなで、ドイツも高等教育制度の改革というよりも整理をすすめています。
その動きの中で、FHTWベルリンもHTWベルリン(Hochschule fur Technik und Wirtschaft Berlin ) へと改組しました。2009年4月です。10月には新キャンパスへ移転する予定です。その新キャンパスを見学させてもらいました。
P101~103が新キャンパスです。たいへん広い。旧東ベルリン地域にあった電線 工場を丸ごと買い取ってキャンパスに作り替えています。見学した9月では工場の一部が操業してました。ですから、改装が終わって大学として使っている部分 、改装中の部分、まだ工場の部分が混在しています。
HTWベルリンは1874年にベルリン市によって開設された被服・衣料関係の技師学校を母体として発展してきました。そこで今でも衣服デザインの学科があります 。P104にはミシンがずらっと並んでいます。ちなみにJUKIミシンでした。P105は 学生が使っている様子。P106は学内のファッションショー用のステージです。P107 は考古学デザインといってましたが、第二次大戦で爆撃された都市の様子をミニチュアで復元する作業を見せてもらいました。右側の方がそのコースの主任の先生です。そうした、博物館等に展示するための復元作業のコースあり、これも体育館のようなところを区切って使っていました。授業の教材として、映画会社か ら頼まれたもの(例えば、戦時下の軍事通信用の列車の車両、実際に見せてもら いました)を使いながら行うことがあるようです。P108はそうしたブースの一つ です。
ドイツの大学は日本の学部のような「専門領域」で内部的に区分されます。HTW ベルリンは、経済専門領域Ⅰと同Ⅱとエンジニア専門領域Ⅰと同Ⅱの合計4つの専 門領域で構成されています。写真の新キャンパスは、主にエンジニア専門領域Ⅰ ・Ⅱで使われます。このふたつの専門領域の詳細については、かなりきちんと資料を読まないとわかりません。
写真からの印象でもわかりますが、日本の専門学校のような内容も入ってるということです。かなり職業教育に踏み込んだ内容になっていることです。従来ド イツの大学は「学術的大学」ということで表せるようにかなりアカデミックな場でした。大学の伝統になく、また実務的・技術的な内容を持つ教育機関は、高度 な技術・内容を取り扱っても、それを「大学」として認めてきませんでしたし「大学」になる教育もなかったといってよいでしょう。大学の社会的地位も高いのですが、一流の技術者への社会的な地位もそれなりのものです(「職人は黄金 の腕を持つ」)。従って長いこと両者の融合は、提唱されてきましたが、実現してきたとはいいがたいものがあります。
ここに来て、ボローニア・プロセスという「黒船」でドイツの教育制度も大改変が迫られています。

P.101

P.102

P.103

P.104

P.105

P.106

P.107

P.108

  1. ホーム
  2. 理事コラム
  3. 進むドイツの大学改革
TOP